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大阪大学経済学部を卒業、大学院で博士(国際公共政策)を取得。1987年に住友生命保険相互会社へ入社し、住友生命総合研究所で研究者としての活動をスタートさせる。1999年からは九州大学経済学部に客員助教授として出向、出向後はリスク管理統括部で実務経験を積む。2008年に住友生命保険相互会社を退職し、武蔵大学経済学部の教授に就任、現在に至る。専門は金融論・リスクマネジメント論。保険会社での実務経験を活かし、仮想通貨をはじめとする新しい金融商品のリスクについても研究・発信を行っている。
「仮想通貨(暗号資産)に興味はあるけれど、謎が多くて一歩を踏み出せない」という方も多いのではないでしょうか。
今回はリスク管理の専門家である茶野努教授に、暗号資産のリスクをわかりやすく分解していただきました。
リスクの正体を知れば、不安に振り回されない投資の判断ができるようになるでしょう。
大学時代、将来銀行員になりたいという希望があり、審議会等で活躍されていた蠟山昌一先生に師事しました。
1987年に大学を卒業しましたが、当時は現在のように株価が史上最高値を更新し続けていた時期であり、卒業論文のタイトルは「株価はバブルか?」でした。
3年後にはバブルがはじけて、株価は大きく下落するわけですが、その頃から資産価格の変動には強い関心を持っていました。
就活に際しては、保険会社の人のほうが優しい雰囲気で、人当たりもよい方が多く、住友生命に入社しました。
住友生命が住友生命総合研究所を設立し、立ち上げのメンバーとして、金融調査部で銀行や保険を含む金融システムについて幅広く研究を始めたのが、研究者としてのスタートになります。
研究所での研究成果を二冊の本にして出版したあと、住友生命に戻りました。リスク管理統括部に配属になり、しばらくリスク管理の実務に携わりました。
2000年代初頭というのはERM(統合リスク管理)をいかに金融機関に定着させていくかという時期にありました。
リスク管理というのは実務と研究の両面からのアプローチが必要な分野であり、住友生命を退職するのがリーマンショックとちょうど重なるなど、現場の貴重な経験を積むことができました。
茶野ゼミでは、現在の状況に疑問をもち、それをデータ分析によって解明するという実証研究を重視するところに特徴があります。
近年は学生さんの興味関心に合わせ、金融以外の多様な身近なテーマも研究対象にしています。
過去の学生さんの研究テーマの例としては、『情報漏洩事故が株価に及ぼす影響』『日本人は株主優待が好きか?』といった経済的テーマ、『人はなぜ転職するのか』『なぜ結婚したいと思うのか』などの社会的テーマなど、多様なテーマを取り扱いました。
『電子マネーの普及と貨幣需要-キャッシュレス社会にむけて-』『ビットコインの価格決定要因』など学生さんは、新しいものに対する嗅覚に優れているように思います。
これらのゼミ研究は、武蔵大学の「学内ゼミ大会」で優秀な成績を収めています。彼らの研究をベースに、私の方でレポートに仕上げて専門誌に投稿するというようなことも多くあります。
ゼミの運営としては、中央大学(平澤ゼミ:保険論)、立命館大学(播磨谷ゼミ:銀行論)との「インターゼミナール」を重要視しています。
50名ほどの学生さんが一堂に会し、日頃の研究成果を発表、活発な質疑応答を通じて、学外のハイレベルな仲間と切磋琢磨できる貴重な機会となっています。
学内ゼミ、インターゼミに向けた準備など、やるべきことは多くて忙しい半面、努力がしっかり実を結ぶオープンな雰囲気だと思っています。夏合宿やOB・OGとの交流など懇親イベントなども行い、学生さんの就活に向けタテ・ヨコの繋がりを強めることを心がけています。
資産価格が大きく揺れる瞬間を実務の現場で経験し、ゼミでは学生さんと一緒に「なぜ?」を徹底的にデータで解き明かしてきた茶野教授。今回は、そんな教授に仮想通貨(暗号資産)のリスクについてお話を伺いました。
仮想通貨という呼称が投資判断を歪めると思っています。
通貨(貨幣)の機能は、交換手段・価値尺度・価値貯蔵の三つです。
ビットコインなどは、一部の市場で商品等と交換できるので「交換手段」としての機能はわずかに果たしていますが、価格変動が激しく「価値尺度」としての機能は乏しく、「価値貯蔵」手段となるかは現在のところ、いまだ不透明だと感じています。
仮想通貨ではなく、暗号資産と呼ぶべきです。
「仮想通貨」という名前がついていると、なんとなく円やドルみたいに安心して使えるお金、というイメージを持ってしまいがち。でも実際は値動きが激しく、そこまで安定していない。だから実態に合わせて「暗号資産」と呼ぶ方がしっくりくる、ということですね。
暗号資産の特徴は、それ自体に実用価値がないところです。
たとえば、投資対象としての金には、実物資産としての使用価値があり、産業用、宝飾品としての需要があります。
卒論の対象にした株式でも、そのファンダメンタルズ価格は企業業績に連動するはずです。
しかし満期がないという特性から期待・予想が価格形成に大きな影響を及ぼし、超金融緩和の状況と重なってバブルを生じさせます。
そう考えたときに、暗号資産の価値をどう評価すべきについて慎重であるべきだというのが基本的なスタンスです。
「金」には使い道、「株式」には企業の裏付けがある一方、暗号資産にはそのどちらもありません。値段が期待だけで動きやすいからこそ、慎重な見極めが必要になるのですね。
暗号資産の抱えるリスクをERM(統合リスク管理)の観点から整理すると、次の4つになると思います。
①市場リスク | ボラティリティ(価格変動)が大きいこと |
②流動性リスク | 適切なタイミングで取引が行えるような市場の厚み(マーケット・デプス)を欠いていること |
③取引リスク | 取引所やウォレットがハッキングされ資産が盗まれる可能性があること |
④規制リスク | 新しい法律や規制が導入されて取引が制限される懸念があること |
これらのリスクは取引の不安定要素になりますので、長期投資の対象としてはビットコインなどの実績のある暗号資産に限られてくるのではないでしょうか?
暗号資産に関しては、現在のところ、上記のリスクを認識した短期的投資、ある意味、投機的な投資対象にならざるをえないのではないかと思っています。
ここで注意すべきが、行動心理学が指摘するFOMO(取り残されることへの恐怖、fear of missing out)です。
誰かが大儲けをしていることを知ると、自分が「負け組」だと思い込んでしまう心理が働きます。
「負け組」になってはいけないという感情が、合理的で冷静な投資判断を上回ってはならないというのが鉄則です。
SNSで話題の投資話を見て焦った経験、ある方も多いのではないでしょうか。専門的な見解として「心理的な罠」だと認識しているだけで、次に同じ場面に出会ったときに立ち止まれそうです。
①ローリスク・ハイリターンは存在しない
ERM(統合リスク管理)とは、収益(リターン)、リスク、自己資本を総合的に管理することです。
意思決定において、リターンのみを判断基準にするのではなく、リスク調整済みリターンで見なければなりません。リターンとリスクは表裏の関係にあります。
すなわち、ハイリスク・ハイリターンまたはローリスク・ローリターンであって、ローリスク・ハイリターンなものは存在しないというのが第一です。
②自己資本は損失を吸収する「リスクバッファー」
つぎに重要なのは自己資本で、これがリスクバッファー(リスクの緩衝材)となります。損失は必ず生じますので、自己資本でどの程度吸収できるかが問題です。
個人でいえば、自己資金ということになります。第二に、自己資本が多ければ、それだけリスク・テイク可能だと言えます。
③リスク分散のコツ「卵を一つのカゴに盛るな」
最後は、リスク分散です。相場には Do not put all your eggs in one basket.(卵を一つのカゴに盛るな)との格言があります。
株式・債券など資産の分散投資から、株式ポートフォリオの銘柄構成まで、リスク分散が重要です。
リスク分散の源泉は、資産間、銘柄間の収益変動が同じでない(完全な正の相関ではない)ことにあります。
反対の動きをするものを組み合わせると、一方の収益が下落しても、もう一方が上昇してカバーするので、全体のリスクは減少します。
誤解してはならないのは、全体の収益が高まるのではない点です。
さらに、実際には相関は必ずしも安定的ではないことに注意を要します。
たとえば、リーマンショックのような金融危機時、資産間等で正の相関が強まる傾向があります。
①ハイリターンにはハイリスクが伴う
②余裕資金の範囲で
③一つに集中させない
この3つを覚えておくだけでも、暗号資産に限らず投資判断を冷静にできそうです。
大学では、債券価格の求め方や市場のしくみなどは教えますが、人生のライフサイクルと資金需要、どの時期にどれだけ資金が必要かといった教育は必ずしも十分ではありません。
本来はライフプランナーが行うような内容、つまり長期的な視点で個人の資金需要を見据え、どれだけ蓄えないといけないかを具体的にスケジューリングする教育がもっと必要です。
長期的な視点で自分の人生設計ができる金融教育。それを早い段階から行うことが非常に重要です。
老後への備えの充分性に関する実証分析の結果によれば、老後の心配が少ない人は、ある程度リスク資産に投資できる人です。
長期的な視点で30年、40年先を見据え、株式などのリスク資産に投資している人ほど老後の不安は小さい傾向があります。
一方において、近視眼的に行動して安全資産に偏重して投資する人は、どうしても準備が不足しがちで、老後に対する不安が非常に大きくなる傾向があります。
したがって、若い時期に投資を始めることが極めて大切で、若年層ほど長期的視野に立ってリスク・テイクする投資行動が必要です。
参考文献:「あなたは大丈夫?老後の明暗を分ける『現役時代の資産形成戦略』」(富田隆介、NRI社会情報システム株式会社)
暗号資産に限らず、「早く始めて長く続ける」ことの大切さが伝わるメッセージでした。リスクと正しく向き合いながら、自分に合った一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
インタビュー対象 | 茶野努 教授(武蔵大学経済学部教授/金融論・リスクマネジメント専門) |
インタビュー実施日 | 2026年7月 |
実施方法 | インタビュー |
インタビュアー |